SCPが好き。SCPとは、かなり雑に説明すると、いろんなネットユーザーが創作した不思議な生物や超常現象に関する架空のお話がたくさん投稿されたウェブサイトのこと。海外発祥のコンテンツで、日本版はここ。サイトを訪れると、我々は「SCP財団」の一職員となり、それら不思議な生物や超常現象を「SCPオブジェクト」として様々に分類・研究し、判明した生態や特性をまとめた報告書を読む、という設定で楽しむことになる。そうした異常な存在は一般市民の安全な生活を脅かすものであるため、財団職員は、報告書を読みそこに記された手順――すなわちプロトコルに従い異常な存在を収容することを任務としている。つまり、やたらめったら異常な存在を好き勝手に作って良いのではなく、大まかな世界観に則ってある程度の設定を共有した上で創作するわけだ。この世には一般人には知られていない奇妙な、または危険な生物・物体・空間、もしかすると地球や宇宙そのものの異常があり、それらを秘密裏に研究する機関、SCP財団が存在する。だけどそれらSCPオブジェクトの中には、財団と敵対する組織が人工的に作り上げたものもあったりして……という世界観。とりあえず元祖であるSCP-173 彫刻 – オリジナル(翻訳版)を読んでみたら雰囲気がわかるはず。2分で読めます。SCPオブジェクトは研究対象なのでこうして被験体番号を割り振られ、報告書内でも常に番号で呼ばれるが、メタ的にタイトルがついている。
SCPが何の略かというと、異常存在を確保=Secureし、収容=Containし、保護=Protectする、の略であり、前述の収容プロトコルの正式名称「特別収容プロトコル」=Special Containment Proceduresの略でもあるのだそう。そこの君もProtocolじゃないんかい!って思ったよね。日本版創設当初にちゃんと議論された結果みたいよ。
さて、SCP-173は第1作めであるため非常にシンプルで、報告書に記載されたことが全てである。①未知の生物 ②誰かに見られている間は動けないが、誰にも見られなくなった瞬間、近くの人間の首を切って殺す ③それが瞬き程度の短時間であったとしてもアウト。一瞬でだるまさんがころんだをやっているような感じ ④だから危険なので無人のコンテナに収容して絶対カギかけとく 以上。わかりやすい。でも、現在は日本版のSCPオブジェクトだけでも3,000作品ある。コンテンツの定めと言うべきか、やっぱりだんだん複雑化していく。もはやSF推理小説並みの作品も多数存在する。これがまた面白いんだけどね……とは言え、他の読者の考察や解説を読まなくては理解できないものもたくさんある。私にとってそんな推理力の必要な作品の一つが、SCP-654-JP マトリョーシカだ。この記事ではこのSCP-654-JPについて、どうにかしてできる限り著者の想像をそのまま味わうことができないものか、考えていく。ちなみにその著者は現在時点でアカウントを削除しているが、彼の有名なto2to2氏だ。どんな風に有名なのか詳しく知りたい方はこちらへどうぞ。単なる紹介でなく、著者がかなり独特な思考の持ち主であるため、残念ながらそもそも理解できる代物でない可能性を踏まえておくための予備知識である。ただ、作品はどれも質が良くて面白いので、先述の著者リンク先の「書類」タブからぜひ読んでみてほしい。現在はTwitterにて消息が確認できる。また、この記事の執筆開始後にdonoturafriendsとして転生したようである。もとい、以下ネタバレ注意。
まず報告書と『梨枝博士の調査書類』を素直に一通り読んでみる。わかることは以下の通り。
- SCP-654-JPの世界観は地球空洞説、中でも凹面地球説(に近い設定)に基づいている
- 基底現実の地球は、前に存在した地球の内側に構築された。前の地球もその前に存在した地球の内側に構築されたものであり、その前の地球もさらにその前の……という風に、これまで6つの地球が構築されている
- 基底現実(6つめの地球)より古い地球は既に自然消滅している
- 結論SCP-654-JPは、自然現象として地球が自壊し、結果人類が滅亡するという経過または性質を指すことになる。報告書系オブジェクトと見せかけて空間系オブジェクト、と見せかけて、地球そのものが異常だったパターン
- これらの地球は別の個体でなく、並行世界が時期をずらして始まったような感じ。なので6つそれぞれにほぼ同一の人物や組織が存在する。ただし地球は新しくなるにつれ物理的に小さくなっていくため(マトリョーシカのように!)、異常現象が確認された距離や年代などは相対的に大きく・早くなっている
- 新興宗教の一員である███氏が50年前にどうにかしてそれに気づき、この非常事態を早期に観測するため・周知するため、特殊な力を込めた中庭を擁する礼拝堂を建設した(と読んでみたけど、別に単なる偶然と読んでも支障ないね。ここは味つけの部分なので深掘りする必要なさそう)
- 地球B(外側から二番目に位置した地球)以降の地球では並行世界の存在を自覚しているので、報告書を転送し注意喚起する試み「アンカー計画」が行われた
著者直々の解説があるおかげで、基本的な理解だけならまあ簡単。アニヲタWiki(仮)解説ページのコメントに端的な表現があったので借りると、“世界はマトリョーシカじみた入れ子構造で、外側から順番に消滅し始めたって事かな? — 名無しさん (2020-03-14 23:12:12)”ということだ。そして基底現実の地球もいつか自壊するかもしれないからやばいってことだよね。
一方、以下の点については悔しいかな直感的に理解することができなかった。
- 凹面地球設定と認識障害の関連(高所恐怖症や「出口」はどの立ち位置からの感覚なのか)
- SCP-654-JP-1は(小林博士の発言にノイズがかかっているにせよ)どこで構築されて、どこに向かって動いてるの
- SCP-654-JP-1の移動停止時に海が宇宙空間のようになったのは何
- 下層の地球の構築過程“卵を割るような”って具体的にどういうこと。あおぞらだかおおぞらだかは何のことでありどうなって線状に変化するの
- 地球A(一番外側に位置した最古の地球)の世界に宇宙がなかったとはどういうこと
枝葉の部分と言えど、理解したいじゃない! こういうとき頼りになるのは外部の考察/解説コンテンツだ。が、予想より遥かに少ない。あまりに少ないので全部読んできた。以下で全部触れる。
先に挙げたアニヲタWiki(仮)解説ページ。ここでは次のように説明されている。“起きている現象の正体は、地球の縮小と次の地球の出現である。”“「前の層」が外殻である空を残して縮小し始め、中に入っている次の層が表に出てくる”“そして、次の層の出現と共に、縮小しきった前の層は消滅。その層もいずれ縮小し、また空だけを取り残して次の層が現れ……と、繰り返されているのだ。” ふむ。こんなイメージだろうか?
これはこちらのゆっくり解説の解釈と同じのようである。この解釈だった場合、上記の疑問点についての回答はこうなる。
- 凹面地球設定はあくまで“に近い”程度であるため、“人類の居住している地球表面が、実は無限に続く岩塊の中に存在する、泡状の球体の内部であ”るという点は採用していない。“太陽や月や星は、空間内部に浮かぶ雲のようなもの”という点のみ採用している。簡単にいうと、地球は普通に球形で人類は凸面に住んでるけど、内部は空洞で、その内部空間には下層の地球を含む宇宙が入ってる。地球空洞説と大地球体説のシンプルなハイブリッド(なぜかわざわざ凹面なんて言うから混乱が生まれた)。認識障害については、地球Aの人類は収縮によって中心へ中心へ引きずり下ろされていくことになるので、相対的に自分は今高いところにいるのだと思い至ってしまったせいで高所恐怖症を発する。「出口」はその逆で、上へ上へ逃れ、縮小に巻き込まれまいとする本能
- SCP-654-JP-1はそれぞれの地球内部で構築される。地球Aが縮小したから地球Bが出てくるのか、それとも地球Bが自ずから[編集済]の沖合い([ノイズ] の真ん中)を出口と見て脱出を開始するのかはわからないが、とにかく中から出てくる。地球Bが出てくるときに地震が起きる。出てきたら“次の地球に必要なものだけ吸収している”ので、“自身から10km周辺のあらゆる物体”が“未知の”原理で“消滅”する。ここは“全部次の地球にちょうど良いサイズに”“分子レベルで収縮してる”でも良いかもしれないね、周期が短くなったり文字の容量が大きくなってるので(この辺に手を出すと相対性理論的なことになってしまうのだろうな……全く造詣がないので雰囲気で突っ走らせてください)。その後は上空の裂け目からさらに外側へ出ていくと思われる
- SCP-654-JP-1の移動停止時に海が宇宙空間のようになったのは、上空の裂け目から(地球Aにとっての)宇宙が流入したってこと? でも、地球Aの世界には宇宙がないと明言されている。それに、これだと地球Bにとっての宇宙はどこにあるのかという話になる。仮に宇宙は上層の上空の裂け目から下層へどんどん流入していき地球A,B,C,…全てで共有する形になるのだと考えても、卵殻が空、卵殻膜があおぞら/おおぞら、白身が宇宙で黄身が地球っていう位置関係とは矛盾するよね
- 下層の地球の構築過程“卵を割るような”が具体的にどういうことかは、上述の通りわかんない。あおぞらだかおおぞらだかは何のことでありどうなって線状に変化するのかは、地球が縮小することで空がどんどん遠くなる様子は想像できるが、線状? 線状???となって終わる
- 地球A(一番外側に位置した最古の地球)の世界に宇宙がなかったとは、単純に全部空ということかも。一般的な宇宙空間に当たる部分が全部ただの空ということ。無限に広がる空に地球Aだけが浮かんでいるということ。 ←上の項目で矛盾が生じてる
最初の項目以外は解決しきれていない。特に卵構造について全く意味不明だ。“卵を割るようなもの”なる説明と整合性を取るためには、外側の地球から順々に収縮していくという想像を一旦取り払わないといけないような気がする。SCP-654-JPにおいて著者が「縮小」と表現しているのは、「(再構築)」という付記からも判断できるように、次に構築される地球は元の地球に比べて小さいですよ、という意味合いに限られるのではないか。
続いて、SCP解説動画。いろんなファンが作成してくれてるからきっと素敵なものが公開されてるはず……と思いきや、かつてはsm27899752やsm33984923が視聴できたようだが、現在はどちらも非公開になっている。うっ、何かご事情がおありだったのでしょうね……。クリエイター各位に敬意と感謝を込めて。また、YouTubeで[SCP-654-JP]と検索してみても、先述の動画の他は見事にフラクタルタマネギしか出てこない! みんなジョーク記事大好きだな! 私も好き。だが困った。いろいろと検索した結果、Twitterにて@SCPPierrotという方の下記の投稿が見つかった。
ありがとうございます。拝聴したところ、「昔はとんでもなくデカかった」「一定の大きさになったら、他の場所に半径1,000kmを超える球体が出現」と要約されている。昔デカかったというものはあえてぼかされているが、地球が、てことで良いのかな。認識障害の原因となる異常空間が、だったら報告書と矛盾するもんね。逆に一定の大きさになったらというのは、異常空間が、てことで良いんだよね? 地球が膨張すると取ってしまうと、地球Fは一番内側の一番小さいものという説明に違和が出る。SCP-654-JP-1の半径についてはどこで知ることができたんだ……? 作者の誤読でなければ私の見落としだ。教えてくれペニーワイズ! あれこれ気になる部分はあるが、ざっくり紹介動画であるため細かい点には言及されておらず、疑問点の解消には至らなかった。
最後に、SCPのファンであり様々な切り口からSCPを紹介する記事をたくさん公開していらっしゃるブログ「退屈ブレイキング」さんの、『SCP至上最も難解な報告書ベスト10【解説有り】』。きちんとご自身の言葉でご自身の解釈と感想を載せてらっしゃる、昨今では稀少で貴重なブログである。こちらのお陰で、一つ整理できた着眼点がある。“古い世界は自発的に崩壊して新しい世界の宇宙や青空と”なるためには、やはり大地球体説に基づかなくてはならないという点だ。みかんの実から見ると、みかんの皮が剥かれたら自分の外側に散らばってますよね、というイメージ。凹面地球説では、地球では球面の内側に沿って海と陸が張りついており、空と宇宙は球体の内部に浮かんでいる。そのため古い世界が自発的に崩壊して宇宙や青空となったところで、新しい世界からは見えないはずだ。無理矢理凹面地球説を前提にしてみると、「地球Bが球体が浮かんでいる大きな空間はもともと地球Aでした」という意味では「まあ地球Bからは見えないけど、仮令見えなくてもれっきとした宇宙でしょ」と解釈できるかもしれないが、著者のヨージョウさんには別にそうした意図はなく、単純に大地球体説でイメージなさったと考えて良いだろう。
1点だけ違うかなと思ったのは、“新しい世界が泡のように中心から無限湧きする”“世界が特異点レベルまで縮みきってしまう”という記述。これは『梨枝博士の調査書類』の当該箇所の見落としだと思う。地球の再構築は地球Fで終わりであり、地球Fの世界においてSCP-654-JP-1は存在しないと説明されている。また、軽い裏設定みたいなものをSCP-JP非公式ファンサイトの著者ページの「SCP-654-JPについて」タブから知ることができるのだが、“F層で破壊が止まるとは一言も記していない。”“F層にはSCP-654-JP-1は存在しない。”とこれ見よがしに書いてある。察するに、基底現実であるF世界(F層)も同様に自然消滅する予定だが、今度は新しい地球が構築されないのでもうほんとに地球なくなっちゃうわねやばいわね、ということを読み取ってほしいのだろう。だから、特異点まで無限湧きする仕組みではない。特異点ネタも面白そうだけど、それならマトリョーシカというよりは、地球版ビッグクランチとかの方がしっくり来るかもしれない。来ないか。自分のセンスを過信してしまった。
やっぱり大地球体説でいくべきなのかなあ? なんで凹面地球説なんて書いたんだろう? Wikipediaで地球の中に宇宙が入ってる絵の項目が「凹面地球説」だったからです、なんて言われたら膝から崩れ落ちてしまうぞ。ただ、そうすると宇宙空間に取り残された青空の破片って何よとなるわけで。
方向を変えて、凹面地球説を起点にして最初から考え直してみよう。
初めに地球Aの世界があった。A世界は、Wikipedia凹面地球説ページの解説図のように、無限に続く岩塊の中に球状の空間があって、海や陸は球面の内側に沿って張りついており、人々も頭を球体中央・脚を放射線状に外側に向けて立つという位置関係の世界だ。まだ地球Bが構築されていない期間、“A世界には宇宙がな”かった。つまり、球体の空間内部には空までしかなかったということになる。これが、推測するに2600年頃、地球Bの構築と同時進行で地球Aにとっての宇宙ができたと仮定しよう。『梨枝博士の調査書類』に添付された著者の解説図ではA層(地球Aの世界)とB層(地球Bの世界)の間に宇宙があるから、A世界はどこかの段階で宇宙を持ったはずなので、矛盾しないだろう。その後、“卵を割るよう”に自然消滅してしまうのだ。一旦本編の描写を無視して、SCP-654-JP-1がA世界の上空にあるのを想像してほしい。この「卵」については、[データ破損](地球Dの世界)の「SCP-654-JP-1-調査インタビュー記録」や『梨枝博士の調査書類』で、次のように述べられている。殻が空、卵殻膜があおぞら/おおぞら、白身が宇宙で黄身が地球(結局あおぞらだかおおぞらって、タイプミスなんだろうか😔 もうわからん)。JAXAの解説を拝見、おおぞらだのあおぞらだのは「中間圏」辺りのことか? とにかく地球Aの人々の頭上からこの辺までをひとまとめに「殻~白身の手前」って考えてしまって差し支えないだろう。いずれにせよ、凹面地球説を基にしているという解説と卵の喩えは筋が通っている。地球Aから見ると、殻が地球Aの空、卵殻膜が地球Aのあおぞら/おおぞら、白身が地球Aの宇宙で黄身が地球B。となると単純に、人間が生卵をパカッとするとき、ぐるりと円周にひびを入れるのを想像すれば良いだろう。これが上空に発生した亀裂だ。そこからエージェント・七瀬が宇宙を見たのは、殻の裂け目から白身が見えるのと同じ。ふむふむ、わかりやすい。改めて解説図とQ&Aを読んでみると、「A層の外側に宇宙は存在しない」と「A世界には宇宙がなく、地球だけが全世界だと考えられていた」という記述が混在している。これが混乱の元なんじゃないか? 前者については、凹面地球設定ならA層の外側は無限に続く岩塊であるからその通りだよね。でも後者については、A世界の住人は球体の内側を見ている、そしてそこに宇宙はなかった、というはずの描写が、まるで球体の外側に宇宙がなかったのを指しているように読める。それだと住人が球体の外側を見ていたような図が浮かぶ。これは違うよね。なので答え合わせはできないけども、「地球Aの内側には始め宇宙はなかったが、地球Bの構築と共に出現した」と解釈することにする。空に亀裂が発生してから“異常現象が発生、地球上の全海域は「宇宙空間のよう”になったのは、上空の裂け目から(地球Bにとっての)宇宙が流入した結果。“SCP-654-JP-1は最初オーロラのような色をしていたが、海の紺碧と、空の群青を反映したかのように変色していった”のは、“次の地球に必要なものだけ吸収してい”った結果。
次に、地球Aから地球Bへの遷移。これは描写がないが、著者ページで“全ての世界は、B→C→D→E→F世界と同じ順序をたどっている”と言われているので、報告書の他世界の記述と全く同じ過程を辿ったものとして考える。エージェント・七瀬は、上空に発生した亀裂から覗く宇宙、さらにその中に、空の残骸たる「青い線」を見た。ここで添付されている写真は、NASAの撮影した、ISSから見た地球の大気(圏?)だ。これは特に深い意味なく宇宙×青い線ということでこの写真を利用したのかとも思ったけど、わざわざ報告書の最後に満を持して載せてあるのだから、実は大ヒントなのかもしれない。卵殻に当たる空はどんどん遠ざかり、最終的には円環の線になる……何? 土星の輪っかみたいな話? ダメだー! どうしてもイメージできない! 参考として挙げられてるエヴァンゲリオンの映画とかあさきの楽曲とか、ちゃんと鑑賞しないと辿り着けない境地か!? どちらも手をつけたことがないから、エヴァは映画のMADを見てきたし、あさきは『まほろば教』の歌詞を読んで、その前身となる楽曲『鬼言集』のMVを見てきた。うん、迷宮入り😇 ちょっとこれは無理だ。ここはもう、不条理演劇?抽象演劇?なんか別役実や野田秀樹のお芝居みたいな感じで(演劇クラスタの皆様ごめんなさい、雰囲気で喋ってます)出来事を論理的に理解するのでなく、出来事そのものがそのまま正面から突っ込んでくるような、そういう領域の演出ということで降伏させていただこう。エヴァやあさきも不条理演劇の仲間だよね。科学的に何がどうしてこうなったとうんうん唸って考えるより、こうした演出の一つとして鑑賞するのが適切な気がする。
さて、どうしても演出という解釈で納得できないことがある。先程無視してしまったSCP-654-JP-1の動きだ。地球が黄身だというのなら、凹面地球上の人類から見ると、空に亀裂→宇宙見えます→その中にSCP-654-JP-1が見えます、という位置関係になるはずでは? ここが最大の難読ポイントだと思う。小木博士だって、地球が破壊されて中身(=白身である宇宙と黄身である地球)が出ている段階だ、って言ってるじゃん! なんでSCP-654-JP-1海から出てくるん!? なんで!? ここはもう、最初から卵の構成であるわけではないと考えるしかない。無から有が出てくることはないから、白身である宇宙に黄身である地球がいきなり構築されたのではないってことだ。構築の素になる物質が必要で、それがきっと地球Aの海底の岩盤か何かだったんだろう。それが海底から浮上して、報告書中では触れられていないけれど、上空の亀裂から宇宙に向かって出ていき、その段階で真に卵と同じ位置関係になると解釈する。そしてそのときは空の亀裂が、少なくとも半径約████kmの球体が通れる程度には広がっているということなので、凹面地球説において空の外側に位置する海や陸にも影響が及び、割れるか何かして消滅したのだろう。
いやこれは無理か。
卵構造は解決したけど、地球Bの挙動を過大解釈しすぎだ。
- 凹面地球設定を採用すると、高所恐怖症と「出口」についての疑問は全く解決しない。
- SCP-654-JP-1は地球Aの海底で構築されて、上空の亀裂から地球A内部空間の中央に向かって動いている
- SCP-654-JP-1の移動停止時に海が宇宙空間のようになったのは、上空の裂け目から(地球Bにとっての)宇宙が流入した結果
- 一旦SCP-654-JP-1のことは置いておけば、凹面地球では外側から内側に向かって地面→空→中間圏(あおぞらだかおおぞらだか)→宇宙と並んでいるため、“卵を割るような”はそのまんま想像することができる。線状に変化するという描写は、中から流出した宇宙に空が押し流されて、(実際の卵殻のようにパキパキなわけではないので)滑らかに伸縮して線状になったとか、まあ不条理劇的な演出と考えるべきか。解説図も断面図と全体図が混在してるからわけわかんないんだよな! でもdonoturafriendsのコメントで“更なる下かつ地中”に次の地球があると説明されているので、一旦SCP-654-JP-1のことを置いておくのはダメそう
- 地球A(一番外側に位置した最古の地球)の世界に宇宙がなかったというのは、文字通り解釈できる
ここまでの試行錯誤……否、「思考」錯誤を経て、混乱の元凶が明確になってきた。卵構造の説明だ。大幅に言葉足らずなのだとしたら? 凹面地球説の検証のときに「殻が地球Aの空、卵殻膜が地球Aのあおぞら/おおぞら、白身が地球Aの宇宙で黄身が地球B」と書いたが、大地球体説を前提とした上で、こう考えたらどうだろう。「地球Bにとっての殻が地球Aの空、地球Bにとっての卵殻膜が地球Aのあおぞら/おおぞら、(次に地球Aの地面があるけど言及を割愛して、)白身が地球Bの宇宙で黄身が地球B(そして、もちろんこの地球Bの外側には地球Cにとっての殻となる空がある)」。で上述の通り、“卵を割るようなもの”なる説明と整合性を取るため、「縮小」を次に構築される地球は元の地球に比べて小さいですよという意味合いに限定してみる。つまり、地球は縮まない。割れる。著者ページでも発想の原点として“地震雲はおおぞらの亀裂。地震は地盤が移動しているのではなく地球が割れているから”(という空想を基にこの作品を書きましたよ)と述べられている。これで考えてみたらどうだろう。
- 凹面地球設定はあくまで“に近い”程度であるため、“人類の居住している地球表面が、実は無限に続く岩塊の中に存在する、泡状の球体の内部であ”るという点は採用していない。“太陽や月や星は、空間内部に浮かぶ雲のようなもの”という点のみ採用している。簡単にいうと、地球は普通に球形で人類は凸面に住んでるけど、内部は空洞で、その内部空間には下層の地球を含む宇宙が入ってる。地球空洞説と大地球体説のシンプルなハイブリッド。認識障害については、地球Aの人類は地面の下に下層の世界が広がっていることに気づいてしまったので、相対的に自分は今高いところにいるのだと思い至ってしまった、しかもこれから地球が割れると来たせいで高所恐怖症を発する。「出口」はその逆で、上へ上へ逃れ、縮小に巻き込まれまいとする本能
- SCP-654-JP-1はそれぞれの地球内部で構築される。地球Bは何らかのタイミングで、自ずから[編集済]の沖合い([ノイズ] の真ん中)を出口と見て脱出を開始する。地球Bが出てくるときに地震が起きる。というか、海中だから見えないけど実は地球が割れてるんだと思う。出てきたら“次の地球に必要なものだけ吸収し”、“自身から10km周辺のあらゆる物体を未知の手段で消滅させ”る。または、“全部次の地球にちょうど良いサイズに”“分子レベルで収縮”する。その後は上空の裂け目からさらに外側へ出ていくと思われる
- SCP-654-JP-1の移動停止時に海が宇宙空間のようになったのは、上空の裂け目でなく地球Aの海底から、SCP-654-JP-1と共に(地球Bにとっての)宇宙が流入した結果。つまり因果関係が逆だった。空の裂け目から宇宙が見えたのではなく、地面が割れて宇宙が出てきて、空の裂け目から宇宙が出ていった。そして空の一部を遠くへ押しやるにつれ、空と入れ替えで宇宙が降りてくるような格好になり?地球Aの地表(エージェント・七瀬の周囲)も宇宙のようになっていった
- “卵を割るような”は、下層の地球の構築過程というより下層の地球の発現過程についての表現。あおぞらだかおおぞらだかはあまり深く考えず「空」と一まとめ、卵殻と卵殻膜を一まとめに考えて差し支えない。外側から確認すると、一番外が地球Aの空(地球Bにとっての殻と膜)。次に地球Aの地面。ここまでがA世界。その内側に(地球Bの)宇宙(白身)。当然その下には地球Bの空がある(地球Cにとっての殻と膜)。次に地球Bの地面(黄身)。黄身の中には(地球Cの)宇宙が入ってて、当然その下には地球Cの空がある(地球Dにとっての殻と膜)。今度は地球Cが黄身の立ち位置になる。この繰り返し。これで“卵を割るような”はそのまんま想像することができる。線状に変化するという描写は、中から流出した宇宙に空が押し流されて、(実際の卵殻のようにパキパキなわけではないので)滑らかに伸縮して線状になったとか、まあ不条理劇的な演出と考える
- 地球A(一番外側に位置した最古の地球)の世界に宇宙がなかったとは、単純に全部空ということ。一般的な宇宙空間に当たる部分が全部ただの空ということ。無限に広がる空に地球Aだけが浮かんでいるということ
落としどころとしてはこれで良い気がしてきた……。もっと細かい描写との擦り合わせをしようとしたらまだまだ矛盾点が出るけど、相手も編集者を挟んだわけじゃない一般人なのだから、もう限界だろう。以上といたします。
エヴァンゲリオンが参考資料なんて言ってる時点で、論理的な分析は不可能ってわかるんだけどね……。でも著者の脳内には明確に映像があったってことでしょ。見てみたいじゃないかそれを。そしたら読み手の感性に任せて雰囲気で楽しんでくれ!なんて投げられたくなくて、分析するしかなくなっちゃうじゃないか。でもSCPの楽しみ方としては迂遠だってことは自覚してます。
だけど、これでずいぶん明確にSCP-654-JPの世界を思い描けるようになった! やっぱし具体的に状況がわかると没入感が増して彼らの絶望を追体験できるので、雰囲気で乗り切るよりずっと楽しいよ。と思いますけど。みんな難解なSCP読むときどうしてんの? 雰囲気で乗り切ったら記憶に残らなくないか。毎度こんな長時間かけて分析するのは正直ダルイけど、この手間も込みで楽しいようなところあるしなあ……。SCPは沼だね。