この記事は、2020年に人生で初めて梅仕事に着手したときの日記だ。すなわちノウハウの共有でもコツのまとめでもなく、初心者が考慮不足で四苦八苦したひどい段取りの記録である。
前書き
いつかやろう、とずーっとずーっと思っていた梅仕事、ついに手を出した! おばあちゃんの梅干しが大好きなので、絶対に絶対に継承したかったのだ。興味はあれど、ためらいがあって先送りしていた梅仕事。
ためらい。それは、ずばり置き場所問題である。何かを新調するとき、必ずこの置き場所問題にぶち当たる。大きなものは置き場所を取る。置き場所を取らせたら部屋が狭まる。ミニマリストどころかむしろ持ち物は多いのだが、所有物には友人のごとく愛着が湧いてしまい簡単に処分できない質のため、「不用品を捨てて保管場所確保すりゃ良いじゃん」とはいかない。捨てることは私にとり大変なストレスだ。でも、全てを保管した結果部屋が狭まるのも同様に大変なストレスだ。物の出入りのない状態が至高なのである。
諦めて買ったものの代表は、スキューバダイビングの器材だ。どうにか買わずに続けられればと数年試行錯誤したが、レンタル器材には限界があったので泣く泣く購入に至った。半畳くらい失った。でも買って良かったです。一方買わずに乗り切っているものの代表は、ミシンだ。布遊びが好きなのでとても欲しいけれども、部屋を狭めたくないので未だ買わずにいる。根気さえあれば手縫いで何でも作れる。あと、仮縫いまで終えたら帰省時にまとめて実家のミシンで作業したりね。
もとい、梅仕事と言えば壺やら瓶やら桶やら、そういうものが要るだろう。
「でかい壺が要る」
これは見上げるように高い障壁だった。
しかし去年、おばあちゃんが梅干しの塩加減を間違えたそうでカビさせてしまったので(母さん曰く「もう歳だから」だそうだが、私の自室のカーテンも昨年の異常な高湿で一気にカビたので、単に天候のせいではと考えている)(祖母の半世紀来の技術と量産品の非防カビカーテンを一緒にしない🙅♀️)、これはもうでかい壺覚悟で来季やるしかないと梅雨を待っていた。まあ半畳は取らないだろうし。
以下、初挑戦の記録です。紆余曲折がひどいので参考にしないでください。
経験者の方はどうぞ嘲笑ってください。
ここから
事前におばあちゃんから作り方を教わった。おばあちゃんアラウンド・ナインティー。
【材料】
・青梅1升
・塩3合
・赤紫蘇 多いほど良い
【作り方】
① 梅と塩を混ぜる
② 1週間で水(=梅酢)が浮く
③ 梅酢で赤紫蘇を揉む
④ 赤紫蘇を梅漬けの中へ
⑤ 7月の土用の日に3日間天日干し
升……合……嵩か……そうだよな……
梅を自家栽培しているわけでないので、スーパーで買ってこなくてはいけない。だが、農作物を嵩で売っているのは見たことがない世代だ。売り場では重さで分けられているはず。嵩はわからん。どのくらい買ったら良いのか、まずは重さを割り出さなければ。
ところがGoogle先生に聞けば余裕でしょと検索してみても、梅どころか塩すら正しい質量がわからない。梅1升(=1.8L)は1~2kg、塩3合(=540cc)は490~690gというブレっぷり。嘘だろ……
準備以前の段階でつまずくなんて。けどおばあちゃんに聞き重ねてもわかるものでなし、とりあえずそれぞれ「一袋」を購入することに。売ってる側はプロフェショナルなんだから、なんとなく一袋買っとけば一般家庭の一回分の需要になってるはず……!
ということで、
6月8日(月)
おっかなびっくり梅干しの材料を購入。
- 「南高梅」一袋=1kg
- 塩一袋=700g
- 梅売り場の隣にあった赤紫蘇1袋(重さ不明)
- 果実酒用の4L瓶
梅1kgは約¥1,000だった。
売り場に青梅がなかったため、黄色のでも平気かと調べてみると、むしろ梅干しには黄色の梅(「完熟梅」)が向いており、青梅は梅酒向きだと。しかも完熟梅なら重石不要らしい(そういえば重石について聞くの忘れてたな)。
なので結果オーライと思うことにする。おばあちゃんの味からは離れてしまうだろうか。
また、この果実酒用の瓶には漬物に利用して良いとも悪いとも書いていなかったが、おばあちゃんがこれで作っていたため真似してこれにした。
梅は38個入っており、梅干し好きな我が家としては、実家へのお裾分けどころか毎日の食卓のみですら一瞬で終わってしまう数なのだが、1kgの生梅と初対面の私は怖気づいて判断能力がバグり、こう思ってしまう。
「1kgの梅干し、多くない……?」
1kg全て梅干しにするのか? せっかくなら他の梅加工品にも挑戦しようではないか。
だから、梅酒も作ることにしました。梅酒の分の梅7個は取り分け、残り31個で梅干しを作る。記事分けます。こちらでは梅干しに専念。
完熟梅、とんでもなく良い香りがする。
生食できないのが信じられない。梅酒に入ってる梅を食べると、豊かな甘みにうっすらと果実の酸味が馴染んだ、なぜか懐かしさを感じるあの特有の香りがするが、あれまんま。あれって酒に漬けてるから発されたのでなく、もともとの梅の香りなんだね。
そして非常に美しい。色気すら感じる。
梅干しも梅酒も下準備は共通で、まずはヘタを取る。爪楊枝で抉り出すだけなので簡単。
爪楊枝はホワイトリカーで消毒せえよ!説を見掛けたが、面倒なので割愛した。カビたら責めてくれ。
水洗いして、水気をころころと拭き取る。
水洗い後の梅はホワイトリカーで消毒せえよ!説を見掛けたが、面倒なので割愛した。カビたら責めてくれ。
先に簡単そうな梅酒の方を仕込んだ。そしていざ、梅干しである。
まあ今日はこれだけなんですけど。
梅31個=推定希望的観測800gと、塩7/10袋=600gを交互に瓶に入れる。7/10袋とは。秤ないんだもん。
今思えば、塩くらい粒子が細かければ計量カップで普通に2.4合量れただろう。だが、梅・黒砂糖とどんぶり勘定向きのものを取り扱ってきた流れで、この発想は全く出てこなかったのである。阿呆。
ここで気づく。
赤紫蘇まだ要らなくない?
同時に買うべきでなかったのでは??
そうじゃん……1週間後に水が浮いてから、じゃん……今はぴんぴんして綺麗な葉だけど、1週間も保つか??
つい買っちゃったんだもん。隣に売ってたからさ。いやもう神に祈るしかないよ……
6月10日(水)
水、ZERO.
梅がどんどん茶ばんでくる。大丈夫か?
赤紫蘇もどんどんしぼんでくる。どうしよう。
ここでまたググると、塩漬け後は防カビのため一刻も早く梅全体を梅酢へ浸らせるべきと。通常は塩漬け翌日には数cm、3日後には全体が浸るはずと。み、みっか……。おばあちゃんは1週間って言ってたけど、初挑戦なので万全を期し、ネットで広く紹介されていた呼び水作戦をすることにした。
梅が下側・塩が上側になるように並び替え、しょっぱめに作った塩水を100ccくらい入れる。これでどうにかなってくれ……!
赤紫蘇ももうくたくたのへろへろ。何とか延命を図る。
どうやらおばあちゃんで言うところの「梅酢で赤紫蘇を揉む」は灰汁抜きに当たるらしく、一般的なこの工程では梅酢でなく塩で揉むよう。これでいこう。
葉だけを取り水洗いして、適当に塩を揉み込む。(茎はお茶にしました)
かなりぎゅうぎゅう揉み込んだ。そして搾ると……
綺麗なぶどう果汁みたいなのが出てきた。これが灰汁?
二度繰り返し、なんとなくほぐして袋へ詰め、冷蔵庫へ。
頼むぜお前ら!
6月13日(土)
あああ~~~もう一息!
塩漬けから5日経ち呼び水作戦をしても梅酢が上がりきらない進捗に、若干焦る。
どうしようかと考えながら、梅仕事と関係ない普通の食材買い付けへ出ると、最寄りのスーパーのおつとめ品棚に半額の南高梅が。すっかり梅に情が湧いた私、この半額梅を救ってやりたい。でも現時点でうまくいっていない塩漬けに追加して大丈夫なのか?
あれこれ悩みながらGoogleを横断する。梅酢の不足について、重石を使わないのであれば、完熟梅であってもある程度の自重が必要……塩漬けの追加について、容器に余裕があり隙間が勿体ないと思ったら、後から梅を追加しても問題ない……ふむ。
完全に把握した。
こういうことだろう。
梅1kgと塩600g、あと呼び水も追加。自重は増えるし古い梅は救われたし、天才か。
こちらの梅袋は26個入りだった。確かに1つ1つすごい大玉。最初に買ったのは前述の通り38個ということで、重さが同じでも個数はこんなに変動するのか。そりゃ質量わかりませんわ(ノ∀`)
うち1個は茶ばみが酷くぶにぶにで、素人目にも駄目そうだったので、ジャムにした。記念すべき生涯初の梅料理はジャムになってしまった!
6月16日(火)
梅酒が非常に順調な中、梅干しの方は……
梅酢めっちゃ出た!!
よっしゃーもう赤紫蘇入れて良いでしょ。
冷蔵庫の中で元気にしていてくれた。
赤紫蘇を塩揉みして冷蔵保存っていう処理は、梅干し関係なく普通の保存手順としてあるようだ。また結果オーライだったね。次回からは買ったその日に保存処理することにしよう。
おばあちゃん製法の「梅酢で揉む」工程の代わりとして、梅酢をかけて馴染ませてみる。
茶……?
なんか赤くならないな……思ってたのと違う。こんな色じゃないんか。
まあ進めるしかない。
赤紫蘇を加えた。正直色にはこだわらないから、別に赤くならなくても良い。紫蘇漬けは大好きなので、味が良ければ何でも良いです。
そしてこの日、初めて塩の溶け残りが気になってくる。放っておけば溶けるんじゃないのか?
またもググると、基本的に梅を漬ける塩の量は梅に対する塩の重量比で18%らしい。
じゅ……!? いやむしろ、私がやってるの60……!!?
根本的におかしかったかもしれない。っていうか梅と塩の質量がブレブレな時点でこの知識を仕入れておくべきだった。仮に濃度が一番薄くなるよう解釈して、梅1升を2kg、塩3合を490gとしても、重量比は20%超。そうだ、理科で習ったじゃないか。塩化ナトリウムの溶解度は温度に関わらず約35g。ざっくり言えば、食塩は水1Lに350gまでしか解けない。質量パーセント濃度にして350÷(350+1000)=26%だ。対して今回の私の塩漬けは、梅1.8kgが全部水だったとしても1200÷(1200+1800)=40%。梅は全部水ではないので(それはそう)濃度はさらに上がるはず。
詰みました。
みんな、家族からの直伝であっても下調べはしっかりしような。今後の経過に期待してくれ!
また更新します!
7月5日(日)
案の定全く溶ける気配がないので、塩を撤去する。
赤紫蘇も梅も一旦取り出し、沈殿した塩を掬っていく。この塩のその後についてはこちらで。
梅はきちんとしわしわしてる。色は悪いが立派に「梅漬け」やってる!
左側の小さくて緑色(写真だと茶色だけど実際に見ると緑っぽいのです)の方が最初から入れてた梅で、右側の大きな黄色い方があとから追加した梅。もともとの実の違いもあるだろうが、左側はこの日まで下層でずっと塩に埋まってたわけで、多少はそのせいで縮み黒ずんでしまったのではないかと申し訳なく思っている。まいいや。
瓶の見た目はこうなった。
健全な梅漬けの姿になったと思う……梅酢も充分上がってて良い感じ。あとは梅雨明けを待つのみ!
7月21日(火)
令和2年夏季の第1回土用の丑の日が来た。
ついに梅漬けを干すときが……! しかしそこで見た空模様とは!?
梅雨真っ盛り。
今年の梅雨は尋常でなく続き、もはや梅雨でなく雨季と呼ぶべきでは?日本の気候区分が変わったんじゃ!とネットでいろんな人が騒いでいた。確かに、ここ何年かの真夏の生命に関わるような酷暑を考えてもそんな気がしてくる。……いや、勘弁してほしい。穏やかな四季が欲しい。穏やかな四季が。
8月8日(土)~10日(月)
長い長い梅雨が明けて二の丑も越え、しばらく様子を見て天気が安定したので、やっと干すことにした。
干し網を買って吊るしてみたり、これだと日当たりに偏りが生じるので、
平らに並べてみたり、でも地面の埃が気になるのでやっぱり干し網に戻したり。
やった感じ、日当たりに神経質にならず適当に干しても大丈夫そう。
めちゃくちゃ塩吹いてるが、これで完成!
いやなんか……
おばあちゃんの梅干し(右)とあまりにも異なりますが……
おばあちゃんの梅干しは、皮が薄くて柔らかく、箸で摘まんだらすぐに破くことができる。一方の私作、すっげえ固い。多分全力でコンクリートに叩きつけても皮破れない。
まあね、祖母の半世紀来の技術と、初挑戦の上に分量やら手順やら勢いで済ませた試作品を一緒にしない🙅♀️てこと。
はらはらしつつ実食。……
外見:干し柿
食感:干し柿
味:梅干し
70点!
でも確実に梅干しではある。何より、酸っぱさだけは祖母のそれに近い!
半分くらいは実家に送って、おばあちゃんにも食べてもらった。
「酸っぱいねえ」って言われた。うん、酸っぱいね……。
でも楽しかったのでOKです。
その後
2023年の晩夏になりました。驚いたことに、梅干しは日が経つにつれ勝手に柔らかくなっていった。表面は塩の結晶でガチガチにコーティングされているが、梅本体の部分はかなり一般的なそれらしくなった! 薄い皮にとろっとした果肉。そして何より、味がまろやかで素晴らしい。死ぬほど酸っぱいんだけど、その酸味がまるっこくなった感じ。こうなると塩の結晶も、お茶漬けなんかに載せるときは、むしろザクザクした良いアクセントとなる。時間経過で旨くなると気づいてからはなるべく消費を先延ばしにしており、と言いつつ、3年経った今となってはさすがに残り1個になってしまった。名残惜しい。
梅干しに「寝かせる」って概念はなかったなあ……。でも、おばあちゃんは梅干し入りの瓶を何本も持っていたから、1年どころじゃなく5年とかのスパンで回していたのかもしれない。
さて、そんな大好きなおばあちゃん、昨年の春に天国へ行ってしまった。最期は完璧に健康とは言えなかったものの、ほとんど老衰と言って差し支えない状態だった。平均的な健康寿命を大幅に上回る大往生。老後の種々の病で家族が疲弊するエピソードを頻繁に耳にする昨今、大きな問題もなく、すごく穏やかで良い終わりだったとは思う。だけど1年半経った今でもずっと寂しくて、この喪失感は一生癒えないんだろうな、とも思う。毎朝写真に挨拶してる。
おばあちゃん!!! さよならは言わん! また会おうね!!