娯楽としてのロープワークを考える

 2020/04/29   

 他にこういう人間に会ったことがないのだが、登山を含めたアウトドアも、漁業や船舶に関する作業も何もしないけれども、ロープワークが好きである。折り紙の感覚だと思ってほしい。1枚の紙を折り折りするだけで動物や植物ができるのを楽しく感じるように、1本の紐を結い結いするだけでいろんな結索ができるのを楽しく感じるのだ。ロープワークを個人ブログで発信する人達は、ちゃんと山に登ったり船に乗ったりして、実践で検証している。私は折り紙感覚で記して良いですか。ロープの材質もわからん。結び目の構造もわからん。結びの用途もわからん。手遊びの娯楽としてのロープワークに嗜みたい。
 ということでこのブログでは、好きなものの一つとしてロープワークについて書いていく。改めて、私はロープワークを実用するような職業に就いていないし、趣味に取り組んでもいない。すなわち、
 山登りもしないし、
 キャンパーでもないし、
 漁師や釣り人でもないし、
 その他の船乗りでもないし、
 植木屋さんでもないし、
 消防士でもないし、
 林業技士でもないし、
 その他ロープワークの実践経験と現場知識がある人間ではありません(免責)
 絶対実用すんなよ!!! 実用したけりゃ別のサイト見ろ!!
 これから書いていく内容は、「ロープ遊び好きの、ロープ遊び好きによるが、ロープワーカーの為にはなり得ない考察」としてご解釈ください。
 また、結びは全て伝承扱い(=紹介に当たり断りを入れるべき相手がいない)で良いかと思うので、権利関係を何も気にせずにどんどん記載していく。まずいものがあればご意見・ご感想欄からご指摘いただければ対応します。

 さて、ロープワークの世界にはいくつかバイブルと呼ぶべき名著がある。中でも歴史的・芸術的・実用的に最も価値があり有名なのは、『The Ashley Book of Knots』だ。意見には個人差があります。これは1944年に出版されたロープワークの本で、題名通りアシュリーさんって人が書いた。このアシュリー氏、本業というか経歴がすごくて、画家と雑誌記者と捕鯨の船乗りをやってた。かっこいいなあ。こういう生き方が良いよね、自分の興味関心を横に広げて、関連させながら発展させて……。昔はこういう生業の立て方が一般的だったのかなあ。なので、自分でロープワークについて検証してるし、自分で文章書いてるし、自分で挿絵まで書いてる。この挿絵がめちゃくちゃ良い! 画集として眺めているだけで幸せな時間を過ごせること請け合い。ぜひ末永く後世に受け継がれてほしい。
 この本、2017年末に著作権が切れたそうで、PDFがネットに出回っている。シンプルに題名でググれば普通に出てきます。Redditに「この本はパブリックドメインだから無料で見て良いんだよ」っていうスレッドがある。正直、版による議論は残るけども。

 本題から外れるけど腹が立つので書かせてほしいことがある。アメリカの著作権って、1997年までは著者の死後50年間が保護期間だったのだけど、1998年にディズニーのせいで死後70年に延長されたのね。ミッキーマウス延命法と揶揄されて、アメリカ国内でも非難ごうごうだったやつ。「死後70年間」を厳密にいうと、著者が死んだ年の12月31日から起算して、70年後の12月31日まで。そして翌年1月1日からパブリックドメインとなる。この拝金法案が1998年10月に制定されて、即日発効だったので、1998年12月31日にもともとの保護期間であった死後50年を迎え1999年1月1日からパブリックドメインになるはずだった出版物は、あと3ヶ月ってところでプラス20年されてしまったのだ。このミッキーマウス延命法には、周知の通り自民党政権がアメリカに媚びたせいで我が国も巻き込まれ、皮肉にもそのアメリカがTPPを抜けた後の2018年になり実害が出ることとなった。骨董通り法律事務所さんの2018年11月2日のコラムに詳しい。話題となった影響としては青空文庫の公開予定作品の取り下げがあったね→著作権保護期間延長に関する「本の未来基金」の考え。これ、今回記事を書くにあたり調べるまで知らなかったのだけど、TPP自体は著作権保護期間の延長と関係がないらしい。以下はITmediaNEWSより、小寺信良さんという方の記事から引用したもの。

 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、環太平洋地域に自由経済圏を構築することを目的とし、12カ国が参加した経済連携協定〔……〕この協定には、各国の著作権法の違いを補正する条項も盛り込まれた。1993年にヨーロッパが保護期間を統一したことに倣ったわけである。
 〔……〕保護期間の70年統一、非親告罪化〔……〕導入を強く求めたのはアメリカ、強く反発したのは日本だと言われている。
 そんな中で2015年10月、閣僚会合によって大筋合意に至ったと報じられた。この際に、保護期間70年延長が盛り込まれた。日本は他の有利な項目を得るために、著作権保護期間を手放したことになる。
 しかし〔……〕アメリカ離脱を受けて〔……〕米国が強く主張していた部分を凍結〔……〕。その凍結部分には、著作権保護期間延長も含まれる。
 日本では2018年5月18日の衆院本会議で、TPP11承認案が可決された。驚くべきことに、この承認案の中には著作権保護期間70年延長も差し込まれていた。TPP11では凍結されている条項であるにも関わらずこれを加えたということは、条約の内容によってではなく、日本政府独自の判断で入れたということに他ならない。
 〔……〕これらの問題は、メディアで大きく報じられることはなかった。〔……〕いったい日本政府は、政策として延長に反対だったのか賛成だったのか。凍結してある条項を、誰がなぜ差し込んだのか。そのあたりは著作権延長問題を長年追いかけてきた筆者らにも、わからない。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1807/09/news093_2.html

 も~~~~~アメリカにいくら積まれたんだよ~~~~~。政治家、卑しい。ディズニーのことも安倍晋三のことも嫌いだなあ。ツイステやってるけど。
 と、ここまで愚痴っておいて何なのだけど、『ABOK』の著作権切れに関してはいくら調べてもよくわからなかったんだよね……。前提として著作権保護は著者が籍を置く国でなく使用する国の法律に従う、ということはamanaの記事で勉強したのだけども、それはそれとして海外勢の言ってることが何に基づいてるのかさっぱりわからない。アメリカ本国での保護期間を考えてみることにする。この本はアシュリー個人に著述され、1944年に出版され、アシュリーは1947年に亡くなった。一旦この時点では1909年の著作権改正法に従い、出版から(最長)56年守られてる。2000年からパブドメの予感。でも1978年の著作権改正法で、1909年法のもとで56年保護だったやつは75年保護に変えますと決まったので、2019年からパブドメの予感。ん? 強行突破、このまま1998年延長法を迎えてみる。1978年法で75年保護だったやつは95年保護に変えますと決まったので、2039年からパブドメの予感。え?? なんだか全然違うところに迷い込んでしまったような。1909年法について著者の個人/法人の別に言及した資料が見当たらなかったのだけど(所詮こたつ記事の調査力なので…)、もしかして最初からベルヌ条約のベルリン改正版での死後50年保護の方の対象だったのかな。こっちの線で考え直してみよう。1998年からパブドメの予感。そのまま1978年法に突入、しかし死後50年保護は変わらないので現状維持。やがて1997年12月31日を超える。アシュリーの没年1947年から起算し、50年後は1997年、その翌年に当たる1998年の元日が、保護期間が明けてパブリックドメイン入りするはずの日だ。この時点でミッキーマウス延命法は発効されていないので、このときフリーになったんじゃないのと考える。んん~~??? でも、前述の通り各所を覗いてみると、アメリカ本国においても70年後に当たる2017年末まで保護されていたような書き方がされている。特に見てくださいこの怒りの声を! 「ディズニーが欲をかかなければ、もっと早く『The Ashley Book of Knots』がパブリックドメインになったのに。失礼、口が悪かった、でも本当に良い本だから、たくさんの人にもっと早く広まってほしかったよ……そうだなあ、アシュリーの死から70年後じゃなくて50年後辺りにさ。」直球の悪口のあと品のなさを詫びるも一転して皮肉を重ねる、パンチの効いた文章である。好き。
 いや、こんなことを書きたかったんじゃない。それにしてもアメリカの著作権周りって底なし沼だな。問い合わせ対応してくれる然るべき機関もあるようだけど、残念、そこまでの熱意はない。誰か教えてくれ。カニンガムの法則しちゃうか~?

 とにかくとても有名な本なので、Wikipediaのページがある。但し英語版しかない。今回、英語の勉強を兼ねて翻訳してみた。せっかくなので以下に記録します。なお初回公開時にコメント欄でご指摘いただいた誤りがあり、訳文内に反映済み。海音さんありがとうございました。

 この記事は、クリエイティブ・コモンズ・表示・継承ライセンス3.0のもとで公表されたウィキペディア(Wikipedia: The Free Encyclopedia)の項目
  The Ashley Book of Knots ( 3 April 2020, at 10:45 UTC )
  https://en.wikipedia.org/wiki/The_Ashley_Book_of_Knots
を素材として二次利用しています。

The Ashley Book of Knots

 『アシュリー著 結索の本』は、アメリカの芸術家クリフォード・ウォーレン・アシュリーが著作・挿絵を手掛けた、結索の事典である。初版は1944年、11年に亘る作業の集大成だった。この書籍には、3854まで付番された項目と、約7,000の挿絵が記載されている。各項目では結索の図解、使い方、そして簡単な歴史が述べられ、結びの種類や機能ごとに分けられている。今日においても、結索についての最も重要で包括的な書籍の一つである。

参考資料としての使用

 広範かつ有用であるため、『アシュリー著 結索の本』は結索の分野で有意な参考資料となっている。アシュリーがそれぞれの結び方に割り当てた番号によって、迷わず識別することができる。これにより、地方ごとに俗称があったり、その結びだと認識されている内容が変わってしまったとしても、結びの識別が可能である。アシュリーの付番は多くの場合、次のように表記される:「The Constrictor Knot(緊縮結び)(ABOK #1249)」、「ABOK #1249」または単に「#1249」とされる場合もあるが、これは参照先が前後の文脈から明らかであるか、すでに示されているときである。
 アシュリーによって複数の番号が割り当てられた結びもあり、これらはいくつかの使い方や形状を持つものである。例として、#1249の主たる項目はbinding knots(訳注:モノを束ねたり、括ったりする系の結索のこと。コブを作るとか装飾するとかではなくて。)の章にあるが、この結びは同時に#176を付され、職業別に使われる結索の章にも掲載されている。
 『アシュリー著 結索の本』は合成繊維の縄類が導入される前に編集・初刷りされており、この時代は天然繊維の索条――主には、捻りを加えたり、撚り合わせたり、編んだりして作られた綱のこと――が最も普及していた。近年の合成繊維やカーンマントル構造の縄を用いて、解説に従ってそのまま結ぶと、結索の機能が発揮されない場合もあるかもしれない。

加筆修正

 この書籍が出版された翌年、アシュリーは脳卒中で衰弱していた。彼には正誤表の制作や、修正版の監修ができなかった。International Guild of Knot Tyers(訳注:結索愛好家のための国際協会)が修正版を提起し、1991年に採用された。最初に出版社へ持ち込まれた修正案は紛失したとされているが、他の大方は、同協会の四季報である『Knotting Matters』内の連載記事から収集された。1991年修正版の後も、さらに誤りが確認されている。
 少なくとも1種の結索、the Hunter’s bend(訳注:エドワード・ハンター医師が1950年代に開発した結び方)(#1425A)が1979年に追記された。

脚注以降は省略します。

調べた単語

  • culmination:極致、頂点、傑作
  • exactly:正確に、ちょうど、厳密に
  • entries:見出し、項目
  • estimate:見積もる
  • comprehensive:包括的な
    ↑comprehend:理解する
  • reference:参考、参照
  • scope:範囲、規模、視野
  • availability:可用性、有効性
    ↑avail:役に立つ、利用する
  • significant:重要な、有意義な
  • assign:割り当てる
  • unambiguously:明確に、一義的に
    ↑ambiguous:曖昧な、不明瞭な、多義の
  • identify:識別する
  • colloquialism:口語体、口語表
    ↑colloquy:対談、協議
  • citation:引用、言及、抜粋
    ↑cite:引用する
  • constrict:締めつける、圧縮する
  • bind:括る、縛る、結びつける
  • occupational:職業の
  • compile:編集する
  • synthetic fiber:合成繊維
  • braid:組み紐
  • commentary:解説
  • erratum:誤字、誤植、正誤表
  • oversee:監督する
  • incorporate:組み込む、取り入れる
  • revision:改訂、校正

-好きなもの


  1. 名前 : 海音  

    気づいたことが2点ほどありますので、コメントを。

    まずBinding knot の意味ですが、
    >2本の縄を縛ってつなげる・道具や支柱に縄を結びつける系の結索のこと。
    この説明は不適当かと思います。通常「2本の縄を縛ってつなげる」はBend の説明、「道具や支柱に縄を結びつける」はHitch の説明になろうかと。

    Binding knot とは、「物を束ねる、まとめる」系統の結びです。折り畳んだ帆布を縛る、拾い集めた薪をまとめる、袋の口を閉じるといったものです。書類をまとめる事務用品の “バインダー” も同じ言葉です。

    次に#1425A のHunter’s bend ですが、これは狩人ではなく、考案者の名前(Dr. Edward Hunter)かと思います。加筆されたページには、別の人(Phil D. Smith)によるアメリカでの印刷物に出てくるのが最初だろうといった記述があります。

  2. 名前 : あまね  

    >>2 海音さん
    コメントありがとうございます。
    『The Ashley Book of Knots』を読む人間が自分以外にいることにびっくりしました。
    もしかしてロープワークの本職の方でしょうか?
    ご指摘いただけて助かりました。

    >Binding knot とは、「物を束ねる、まとめる」系統の結びです。
    ご記載の通りでしたので、本文を修正しました。
    (自分用メモ
    bind:縛る、結ぶ、括る、束ねる、(他人の言動を束縛する意で)義務づける
    “BINDING KNOTS […] serve two purposes. Either they confine and constrict a single object, or else they hold two or more objects snugly together.” (The Ashley Book of Knots, p.219))

    >「2本の縄を縛ってつなげる」はBend の説明、「道具や支柱に縄を結びつける」はHitch の説明になろうかと。
    こちらもご記載の通りでしたので、修正しました。

    >#1425A のHunter’s bend ですが、これは狩人ではなく、考案者の名前(Dr. Edward Hunter)かと思います。加筆されたページには、別の人(Phil D. Smith)によるアメリカでの印刷物に出てくるのが最初だろうといった記述があります。
    同じく、ご指摘の通りでした。
    (自分用メモ
    “HUNTER’S BEND […] ’s first appearance in print seems to have been […] by Phil D. Smith, […] but about the same time Dr. Edward Hunter […] had discovered the same bend for himself.” (The Ashley Book of Knots, p.260))

    改めてありがとうございました。

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