塩まじないを考える

 2022/09/20   

 願望成就のスピリチュアルな手段を求めて検索してきた諸君、残念だったな。私の好きなのはオカルトだ。
 塩が清めや厄除けになるという考え方は、日本では神の時代から行われていたという説があり、ちょっとお話が広大すぎるので手を出さないことにする。まあ汚れたものを浄化し、生命のバリア的なやつを活性化するみたいな効能を信じて塩を頼るのは、もはや一般的に定着した習慣と考えて良いだろう。嫌な奴が自宅を訪問してきたら帰ったあとに塩撒け!とやるのは古典的な表現だし、結界張るのに盛り塩使ったりするしね。ちなみに外国はどうなのといったら、この知恵袋がありがたかったです。
 塩まじないというのは、スピリチュアル好きとオカルト好きのネットユーザーの間でよく知られた縁切りの願掛けだ。現在、「“正式なやり方”は、」「トイレットペーパーに」「悩み事を書き」「無添加の天然塩(できたら清め塩)を」「一つまみ包んで」「燃やして」「灰をトイレに流す」「ただし、強力なので正確な手順を守らなければ不幸が降りかかるかもしれない」まじないとして知られる。上述の通り超自然的儀式における塩の効能ってのはこれだけ当然とされているわけだから、小中学生向けの雑誌に載ってるようなちょっとしたおまじないにも、塩を使ったものはたくさんあったんじゃないかと考える。そんな中で「塩まじない」という呼称がどうしてそれらの総称でなく、この「悩み事を書いた紙に塩を包んで燃やして灰をトイレに流すまじない」だけにあたかも称号のごとく我が物顔で独占されているのか。
 私は塩まじないを気に入っており、思い立ったとき気軽に実行している。一方で、この“正しい”塩まじないを忠実にそして熱心に実行している人々のことは、端的に言ってカモだと思っている。二枚舌だと感じますか? 今回は私のこの一見矛盾した見解について語らせてほしい。

 まじない、ないし願掛けは、自分の願い事を成就させたくて実行するものだ。自力で叶えられそうにないので、神様、お願いします!と。どうしても叶えたい。でも人智の及ばない超自然的存在に頼る以上は“正しい”やり方で失礼のないようにやり遂げなくては、成就どころか祟りが起こるかもしれない。“正しく”、“正しく”……気持ちとしては理解できる。じゃあ、その“正しい”やり方って誰が確立したんだろうね? こういうネット上の民間信仰はごくごく歴史の浅いものなので、簡単に発祥を特定できるはずだ。事と次第によっては、昔5ちゃんねるでvipperが怪談をでっち上げてオカ板の住人を釣っていたのと変わらない状況だと言えてしまうかもしれない。ということで5ちゃんねるを中心に調べてみる。
 占い板(占術理論実践)には、2001年に『絶対効果のある★おまじない★ってない?』というスレッドが作成され、その後シリーズ化した。でPart51まで行ったところで、そもそも占いじゃなし板違いじゃん、てことでPart52からスピ板(スピリチュアル)に移行した(初代スレの>>1も板違いの可能性を自覚して恐る恐る立てたようなので、可愛いものである)。現行スレは、かなり過疎っているが2022年2月からのPart55だ。このシリーズスレを、とりあえず初代から順にさらった。するとPart7で、初出と思しき投稿を発見。

892 :名無しさん@占い修業中:03/11/05 00:50 ID:???
 自分的にはよく効くまじない
 
 悩み事などを書いた紙に粗塩を包んで火で燃やす
 これだけで、なんらかの解決するきっかけがあります
 この方法でずいぶん助かりました
 
 隣近所の騒音問題、会社の人間関係、就職等々・・・
 今日は失恋相手の名を燃やしました

https://hobby2.5ch.net/test/read.cgi/uranai/1062351333/892

 Part7はこの投稿の2日後に1000を迎えるが、それまで>>892に対しレスはついていない。そしてPart8に入り、ここでは上記の投稿が>>13でコピペ化している。ここから先は話題に出たり出なかったりして、ずーっと進んでPart18、以下の投稿がある。

370 :名無しさん@占い修業中:2005/04/26(火) 19:33:15 ID:???
(※一部抜粋)
 ●悩みは紙に書いて塩を包んで燃やす
 塩は洋の東西を問わず魔よけの効果があると言われています。これは食べ物を塩に
 つけておくと腐敗しにくくなるので、邪悪なものを遠ざけると考えられたからです。
 簡単な割には意外にしっかりとした効果があるので試してみては。
 解決しなければならない問題や、悩みが起きた時には、
 それを書いた紙に塩を振って包み、小さく折ります。その後、火をつけて燃やす。
 そうすると悩みを解決する糸口が見つかるでしょう。

https://hobby5.5ch.net/test/read.cgi/uranai/1113497312/370

 続いてPart19

533 :名無しさん@占い修業中:2005/05/24(火) 11:45:59 ID:???
 流れは違いますが、紙に悩み事を書いて塩を包んで焼くおまじないはけっこう効きました。
 私にとってはトリンカと塩は効果があったおまじの二大巨頭でつw

https://hobby5.5ch.net/test/read.cgi/uranai/1115897642/533

 さらに進んでPart27。どういう風の吹き回しか、突如このスレで関連レスが爆発している! 2006年1月のことである。「塩」でページ検索すると、これまでは多くても15件くらいだったのに、このPart27では141件も出てくる。まず注目すべきは>>533、Part7で情報初出ししたらしき人が書き込んでいる。風水の本で見つけた方法だと。その他>>348>>710>>740>>962辺りが経験談もしくはその分析だ。他はぜーんぶ質問レス。そう、ここでついに「“正しい”やり方を教えてください」が出てくるのだ! 思うに、初出投稿主本人が降臨したことと、複数の成功体験が投稿されたことが重なり、なんかすごそうということでわらわらとノウハウコレクター(「2ちゃん受験生における10法則」コピペの⑦のタイプ)が群がってきてしまったのではなかろうか。この大量の質問レスの中で、「『塩のまじない』=あの燃やすやつ」という共通認識が生まれたように見える。だが、このまじないにPart7 >>892以上の情報はない。次のPart28の>>753-754でもそもそも書かれていない内容に関する質問をたしなめるやり取りがあるし、同スレの>>779-782でも、対象のまじないは違えど同じ趣旨の会話がある。しかし彼らの啓発も虚しく、噂に尾ひれがついて広まるのと同じで、「この部分はこうが良いらしい」「あの人はあのやり方で失敗したらしい」と少しずつ聞きかじったものが膨らんでいき、「この部分はこうでなくてはいけない!」「あのやり方だと逆に不幸になる!」と思考停止のノウハウコレクターらが自ら印象に残しやすい形に単純化・過激化していったようだ。Part33の>>48-62>>283-292ではそうした流れの中で自然発生した謎ルールについての確認が生じ、それらに惑わされたと思しき善良なスレ住民が>>362-363にて念の為の確認を取っている。しかしあまりにもこのまじないの質問レスばかりであること、さらに住民には「おまじない」をなぜか「おま」と略す慣習があったせいであのまじないを「塩おま」と呼び始めたことで(ピュア馬鹿か?)、Part34に入ると、教科書かってくらい自然な流れでこういう荒れ方をしている。そこでちらほらと「塩まじない」「塩まじ」の名称に置き換え・提案されていき、次第に定着している。Part35の>>626-637では、完全に初出の投稿が忘れ去られ、「『塩のおまじない』の“正式なやり方”がどこかで共有されているはずなのに、部分的にしか見つからない。手順を詳しく教えてくれ」という趣旨の質問が何の疑いもなく書き込まれている。さて、ここまでが2006年11月のことである。
 2007年12月、Part41の>>854がわざわざ占い板に専スレを立ててしまう。ただしここの住人は幾分冷静であり、このまじないにろくな内容がないのを理解しているため、案の定>>1は叩かれるし>>927のような指摘もある。そこで専スレの2以降はオカ板(オカルト超常現象)に立てられた。2008年10月、4でテンプレについて議論する過程で>>64が「使用する紙はトイレットペーパー」「灰はトイレに流す」を追加。勝手な指定に批判もありつつ、ここまでの質疑応答を踏まえた上での初めての“正式なやり方”をまとめたものとして擁護され、5の>>12-13で補足もついて正式にテンプレ化した。

 トイレの件り、どこから来たの!? ここまで「灰は水に流す」は“正式なやり方”確立までの過程で出てきたけども、トイレ指定とは。推察するに、まず「灰は水に流す」が“正式化”し、「家屋の事情で『燃やして灰にする』ができない人は燃やす過程を省略していきなり水に流してもOK」が“正式化”し、必然「では水に溶ける紙としてトイレットペーパーが適している」が“正式化”し、トイレットペーパーが使われることになった結果連想ゲーム的に「灰/紙はトイレに流す」が“正式化”したものだろうか。でもそこまで明確な議論は見掛けなかったような……? いろいろと検索していくうちに、なんと喪女板(もてない女)に塩まじないスレが立っているのを見つけた。その>>29および>>88に、「個人運営のブログで見たのが初見」という証言あり。うち>>29が名前を出していた、「おなすインフォメーション」さんを覗いてみた。発見、2008年3月13日の『「塩まじ」望まぬ未来編(2)』だ!

「塩まじ」クレンジングのやり方

用意するもの:ペン、トイレットペーパー、塩

ストレスに感じていること、不安や心配などの悩みごと、
願望の障害となっている思いなどをトイレットペーパーに
書きます。

塩をひとつまみ乗せて包み、トイレに流します。(以上です)

※ 塩まじの紙を燃やすというやり方もあります。
燃えカスは安全な場所に捨てましょう。
※ 塩について、種類と量はお好みでどうぞ。

https://onasu.exblog.jp/8161751/

 さらに、これをジーニーという方が自らの「助けてエンジェル」というブログで以下の通り紹介している。2008年3月30日の記事。

「ロンドンに住むエンジェル・カードつながりのアメリカ人女性から、「トイレット・ペーパーにペンで手放したい感情を書いて流してしまうといい」と聞いて、僕も以前から時々実践していました。おなすさんがこれを紹介されていたのはびっくりでしたが、ハワイの方からの情報だそう。きっと世界中に広まっているんですね! 

おなすさんの記事を読んで塩を加えて試してみたら、劇的な効果に驚きました。塩を使うとはるかに効果があがります。

しおまじ、まじすげー!

https://uranai.fc2.net/blog-entry-339.html

 うおお、まさにこれらが、専スレ4の>>64が“正式なやり方”として全部合体させるに至った元ネタなのでは!? 2つともスピ界隈では有名なブログのようだし。おなす氏がこれをハワイから仕入れてきたというのをジーニー氏がどこで知ったのかはわからないが、とにかく2008年3月頃にこれら全ての要素が合成されて“正式なやり方”が爆誕したと考えて矛盾はないだろう。

 ここまでで何が言いたいかわかってくれただろう、ノウハウコレクター各位。“正式なやり方”なんか存在しないのじゃよ。だから手順だの注意事項だのに固執しておっかなびっくり実行している人々のことを、裏も取れない良いカモだと見下してしまうのだ。もうね、この投稿が全て!

779 :名無しさん@占い修業中:2006/02/13(月) 19:53:35 ID:???
 橋のおまじないの細かい作法ってここの住人が考えたものだよね?
 皆がえらく細かい事まで気にするので謎だった。
 おまじないって指示されたこと意外はアバウトな方が
 叶いやすいように思う。

https://hobby8.5ch.net/test/read.cgi/uranai/1137940276/779

 私がこれを気に入ってるのは、頭の切り替えにとっても有効だからだ。嫌なことがあると、目の前にその事物/人物がないときでも脳みそが自動的にその嫌なことについて考え出してしまう。食事中でも寝る前でも。ああ腹立たしい、でも自分がもし別の行動を取れていれば回避できたじゃないか。スマホを手にしたらその嫌なことに関する他者の体験談について検索してしまう。そうした時間の無駄を、塩まじないで断ち切ることができる。はい、燃やして流したからおしまい。あとは天にタスク投げます。よろ。思考の切り替えに身体を動かすのは有効だし、ましてこんな呪術を実行したらそりゃすっきりします。その後、その嫌なことがどう転ぶかに関わらずね。というか、すっきりしたらどういうわけか事態も好転した、という経験は誰しも持ってるんじゃないかと思う。
 と、現実的な効果に主眼を置いてはみたけども、実際のところ呪術としても今のところ8割くらい成功している。成功したのは全て、仕事関係の嫌いな人との縁切り。それぞれの人物とは出会って3~5年ほど関わりがあったが(つまりその後の状況変化は予想された必然ではなかったのだが)、塩まじない後は数ヶ月で状況が変わったので、偶然にしては幸運だなという期間。いくつか挙げてみる。

  • 他人の業績を横取りする同僚→同僚が休職に入り、復帰直前に私が転職したので入れ違いで関係消滅
  • 理不尽な条件で取り引きを要求する顧客→業界内共通の法改正により立場逆転。その後私の配置換えにより関係消滅
  • 私に目をつけ、やたら細かいところまで指導し管理しようとする先輩→先輩の転職により関係消滅
  • 自分の意見を通すために他人の都合を平気で捻じ伏せる脳筋上司→私の配置換えにより関係消滅
  • 能力がないくせに自分のやり方に合わせるよう強要してくる上司→上司の転勤により関係消滅

 正直、ちったあ痛い目見ろやって恨んだ相手もいるけども、幸か不幸か単なる関係消滅にとどまっている。あとの2割は叶っていないというより、縁切りではなくて期限の必要ない願望だったけども、その後の環境の変化や私自身の思想の変化を経て、叶ったのかどうなのかわからないという状態。しっかり調べればわかるのだろうけど、興味が失せてしまったりそもそも具体的な内容を忘れてしまったりでそのまま放置している。
 そう、こうも成功してしまうとオカルト的にも楽しいのだ。それもあって塩まじないが好き。ただしこれは私が遊び半分で実行している、その軽さが成功の一因になっていることは間違いなかろう。まじないは道具であり、使用者は私なのだ。ここの主従が逆転したらいけない。ノウハウコレクター各位、手始めに主従関係の確認から取り組んでみたらいかが? 大事なのは“正しいノウハウ”でなく、“正しい主従関係”だぜ! なんてね😉

-好きなもの


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