ニコニコからYouTubeへの引越しを考える

 2018/01/29   

 2010年頃、ニコニコ動画を見始めた。もともとオカルトが好きで、ホラーFLASHやら「検索してはいけない言葉」やらをちらちらと見ていたが、びっくり系とグロは嫌いなのだ。びっくり系とグロはホラーだと名乗ってほしくない派閥の人間。びっくり系とグロでないものだけをじっくりと堪能したい。誰か紹介してくれないか……と手段を探していたときに、「検索してはいけない言葉を検索してみた」という分野の実況動画を見つけた。そこがニコニコ動画だった。以来、ニコニコ動画が大好きになった。ニコニコ生放送も大好きだった。他の分野の動画も見た。ホラーに加え、ゲーム実況、野外料理、アニメや漫画のMAD、歌ってみた辺りが主な巡回先となった。画面を流れるコメントとの相乗効果で、初めから軒並み質の高い動画が余計に面白かったし、国産の動画投稿サイトだからガラパゴス的使いやすさもあったかもしれない。毎日、時間があればしっかり見て、他に作業があればラジオ代わりにして、2015年くらいまでは日々の生活の一部となっていた。
 だけど、その2015年くらいからニコ動は衰退し始めた。なぜ衰退したかについては、野良の有識者たちがあれこれ考察しているのでググってください! と言いつつ簡単に書いてみると、視聴者視点では動画再生そのものの機能が力不足またはこすかった。シークバー操作周りとか、生放送のアーカイブ視聴とか。動画投稿者視点では、動画のアップロードに際していろんな制限が課されて不自由なのと、同じ動画投稿をして余所で収益化できるならもちろんその方が良い。それから運営会社の従業員視点では、待遇が悪かった。というのをよく見かける。個人的な実感だと、好きなクリエイターがいなくなったから自分もニコニコを使わなくなった、という時系列だ。

 では、クリエイターはどこに行ったのか。
 この頃、裏で(当時は裏だと思ってました)じわじわ盛り上がっていたYouTubeが「好きなことで、生きていく」というテレビCMを打ち始めた。これには驚いた。YouTubeの存在はニコニコより前、2006年くらいから知っていた。海外の動画サイトという程度の認識で特に興味がなく、積極的には見ていなかったけど、それでも普通に認知していたし需要が生じたら見に行く程度には使用し慣れていた。2007年だか2008年だかに、同級生の陽キャグループが「ユーチューブって知ってる?」と話題にしていたのを小耳に挟み、あ、これ誰もが知ってる前提で会話しない方が良いやつなんだな…と陰キャとしての学びを得たのを今でもよく覚えている。そんなYouTubeが、テレビでキラキラCMを流しているだと……!? 何年か見ない間に、精力的にクリエイターを集め、収益を提供して新しい稼ぎ方そのものを創設し(広告収入モデル自体は新しいわけではないけどね)、一時代を築きにきているのか。このCMを見慣れてきた頃に、好きなクリエイターが軒並みYouTubeに引っ越した! 巡回先の「うp主」「生主」たちがニコニコと並行してYouTubeでの投稿/配信を始め、次第にYouTubeの方を主体とし、さらにニコニコでは投稿/配信しなくなっていった。肌感覚では、YouTubeはこれを機に噴水のように一気に飛び出して、生活の中に定着した印象。うp主がYouTuberになっていったのだ。私の本拠地も自然とYouTubeに移行した。
 でもYouTubeはやっぱりニコニコとは全然違っていた。それは検索機能が使い物にならないとか、マイリストの再生機能が陳腐すぎるとかいう機能的な使いづらさだけでなく、クリエイターと視聴者の楽しみ方の方向性も全く異なるものだった。ちょっとショックだったこととして、クリエイターたちが動画のサムネイルをYouTube仕様に合わせたという点がある。ニコ動のサムネイルには、ゲームのタイトル画面や一枚絵を切り取ってシンプルにそのまま使ってた。一方YouTube仕様では、コラージュしたり効果を入れたりと加工して使ってる。特徴的なのは、強烈な配色のドデカいゴシック体文字だ。他にも、動画タイトルがシンプルな「○○実況 Part1」とかだったのが「全世界が泣いたという神ゲーがやばすぎた」みたいな、効果効能を伝える形にしてきてる。これはショックだったなあ……でもこのショックの正体というのは、ああいった「サムネで釣る」「動画タイトルで釣る」手法に抵抗感を覚えてしまったからであるわけで、つまりはクリエイターに末永く活動してほしいと思っているにも関わらず、私もいっぱしの、いわゆる嫌儲だったんだな。
 話逸れるけど、現代のあらゆるコンテンツ視聴ってこういう傾向だよね。視聴する前に中身を予想できるものが好まれる。音楽でもイントロがどんどん短くなったり、映画もほとんどのあらすじを下調べしてしまってから見るかどうか決めたり。私はこの傾向、よく理解できるし反対しない。玉石混交の中から玉だけを集めるのは大変だからな。でも世の中が資本主義である以上、この傾向によってコンテンツの多様性は失われていくのだろうね。やっぱ今日から反対してくか。

 そんな私の身勝手なショックは置いといて、こうして、活動基盤をニコニコから見事にYouTubeへ移しきった彼ら。環境の変化を理解して、新天地の勉強をして無事に引っ越したわけだ。ニコニコで慣れて確立したやり方があったろうに、それを更新するには勇気と行動力が要ったに決まっている。結果、クリエイターはより有名になったりより裕福になったり、おかげで動画はより面白くなったりと、良い影響の方が多かったのではないか。見習うべき英断、素晴らしいと思う。
 身軽に環境を変えようとする判断力の重要性を例えやすいところで言ったら、転職も同じ考え方だ。より稼ぎの良い仕事へ。転居もあるかも。より住み良い場所へ。もっと小規模に、人付き合いも挙げられるかも知れない。人間関係の取捨選択。話を広げすぎか? でも、泥船とか茹でガエルなんていう言葉があるじゃん。あれを回避する上で一番難しいのは、わかっちゃいるけど踏み出せないっていう未知への恐怖心だと思う。私も転身を恐れないよう、判断力を磨きたいものだ。
 ニコニコは大好きだったので寂しさは残るが、まあ、いわば「お前、そんな奴だと思わなかったよ」という状態だ。そんなわけで、私もすっかりYouTube視聴者になった。ニコニコは昔の動画を楽しみたくなったときにときどきログインしてます。あと、好きなソシャゲのMADが上がってるときとか! 主に同人の方面でまだまだ需要はあると思うので、ニコニコは悪いところを直して、良いところを伸ばして、どうにかまた一文化圏として再興してほしいねえ……。

-日々の雑感


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